どっちつかず

最近活字が読めなくなりつつあったので、何かもっと軽いものでリハビリをしようと思い借りてきたのがこちら。村上春樹氏とそのファンによる質疑応答をまとめたもの。

正直に言って、私は所謂"ハルキスト”と呼ばれるような人間ではない。村上春樹作品に関しては多くの短編とエッセイ、そして『アンダーグラウンド』は今まで読んだ本の中でも比較的好きなものとして挙げられるのだが、その一方で『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』『1Q84』などをはじめとしたいくつかの長編作品は私には理解しがたいものであった。なんだか彼の文体がものすごくくどく感じられ、読んでいるうちに胸焼けのような気持ち悪さを感じてしまうのだ。比較的長編に苦手なものが多いのもそのせいだと思われる。
そのため現在彼が日本一の売れっ子作家であることやノーベル賞の有力な候補であることが報道される度に私はいささか違和感を覚えてしまうのである。彼の作品は日本のみならず世界中で熱狂的に支持されていることから、それはもしかすると私の感受性の弱さ、知能の低さに起因しているのかもしれないのだけれど。

この本で、村上氏はファンからの490に及ぶメール一つ一つに誠実な返事を書いている。それはどれも彼独特のユーモアに富み、クスリと笑ったり、時にはハッとさせられたりと"ハルキスト"ではない私でも十分楽しめるものだった。
しかし、読んでいて少し気味が悪くなったことがあった。それは、多くのファン(特に若い人と女性に顕著であった)の文体が村上春樹のそれに良く似ていたこと、彼や彼の小説内の行動を悉く真似ていたことである。この本のなかで村上氏は「僕は神格化されていない」というようなことを書いていた。しかしこの本を読む以前から私は彼のファンが村上氏を神格化しているように思えて仕方なかったのであるが、読んでますますその思いが強くなった。感じた気味悪さはカルトに対するそれとよく似ていた。彼は自分の頭で考えることの重要さを作品内やこの本の中でも説いている気がするのに、多くのファンは彼の言動や作品に少々影響されすぎているのではないかと感じた。もちろん影響を受けることは間違いではなくむしろいいことだと思うし、ファンというのは本来そういうものであるのは理解している。これは程度の問題である。

そんな気味悪さを感じた一方で、読んでいてハルキストの方たちが羨ましくなったのもまた事実である。私は今まで作品に熱をあげることはあってもその熱が作者の方まで達することはほとんどなかったのだ。この本の中のハルキストたちは作品はもちろんのこと、何より村上春樹その人に夢中になっているのではないかと感じさせた。そして彼らをそこまで駆り立てるものに対し、こんなことをうだうだ考えてしまう私の感受性が少し恨めしい。


私は熱狂的なファンでも熱狂的なアンチでもないために村上氏の話題が出るたびに双方の評価の間でとても混乱してしまうのだけれど、文章として書きあらわすことでその混乱を解きほぐしてみたかったのだが逆効果だったような気もする。まとまりないし思ったことの半分も表現できなかった。やっぱり村上春樹はじめとする作家ってすごいね。でもこんなに長い文章書いたの久しぶりだしせっかくだから公開してみることにします。ちなみにこの文章は一晩寝かせてません。

好きな作品は短編ほとんど、なかでもこれら。

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

パン屋再襲撃 (文春文庫)

パン屋再襲撃 (文春文庫)

長編ならねじまき鳥
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

そしてノンフィクションのこれからは幼かったため事件当時の記憶がなかったこともあり深い感銘を受けました。
アンダ-グラウンド

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